第5回
独立不羈(き)――他から何の束縛も受けないこと。何の制約も受けることなく,自らの考えに従って事を行うこと,という意味です。不羈には,自由奔放で束縛しえないこと,才知が人並はずれてすぐれていて常規では律しきれないことという意味があります。三権からも世俗からも独立した自発的な意志――それが福沢諭吉(慶應義塾創立者)が『時事新報』に託したジャーナリズムの精神でした。
同志社では,創立者の新島襄が「倜儻(てきとうふき)不羈」を建学精神として掲げています。「良心の全身に充満したる丈夫(ますらお)」と同様,キリスト教精神に基づき,あらゆる権威・権力から独立した自律性に富む人材を育てたいという新島の理念が現れています。私は,必ずしもその精神を体現している自信がないのですが,同志社卒業生らしく,倜儻不羈を座右の銘にしています。福沢や新島ら,明治初期の「知識階級」の「志」は気宇壮大なものがあります。坂の上の雲に向かって駆け上っていく清冽さというか。
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学校制度,交通網・電力などインフラの整備などが相まって,日本でも「興業」を支える「均質の労働力」が育成できたわけです。それらが「新聞を読む環境」を整備し,「時間に正確で遅刻しない(パンクチュアル)」という「近代的人間」を生み出したと考えられるからです。
ただし,日本に「公共圏」が存在したかの問いについては懐疑的です。支配者は交替したものの,官僚制は継続したとみられるからです。武士も士族となり,明治新政権で「雇用継続」されるケースも多かったのです。さらに,江戸期の「地方分権制」から,明治期には「中央集権制」が強化されました(県知事も政府から派遣)。江戸期にも強かったお上意識が,明治期の官僚制ではさらに強化されました。このため,「万機公論ニ決ス」という公共圏はきわめて限定的にしか機能しなかったのではないかと思います。
次回への予告でもありますが,「小新聞」が一気に「中新聞」へと成長し,ビジネスとしての新聞が確立する速度は意外と速く,憲法制定・国会開設と日本は「立憲君主制」を確立します。「脱亜入欧」の精神の中で,帝国主義化を進める過程で,「中新聞」は急成長し,大正デモクラシーを迎えます。欧米諸国が百年以上かけて到達した社会構造に,日本は50年弱で到達します。とはいえ,その過程に性急さ・強引さがあったために,議会制民主主義は「流産」してしまい,軍国主義に支配されてしまうことになります。