第4回

日本新聞発達史』を書いた,日本新聞学の始祖である小野秀雄滋賀県出身である。しかも,神官の子である。という共通点から,赤尾は小野秀雄の足跡に強い興味を抱いてきた*1小野秀雄は瓦版・小新聞・新聞錦絵などの膨大なコレクションを東京大学に残した。しかし,近代的な新聞史観にこだわるあまり,そうした民衆メディアの歴史を過小評価する傾向にあった。『日本新聞発達史』でもほとんど触れられていない。だからというわけではないが,瓦版・小新聞・新聞錦絵が担っていた機能や社会的意義について考察することが,1980年代以降の新聞研究の一つの潮流になった。赤尾もその系譜にシンパシーを抱く。だから,メディア史の授業では,必ず瓦版を取り上げる。

江戸のマスコミ「かわら版」 (光文社新書)

江戸のマスコミ「かわら版」 (光文社新書)

一般論として言えば,80年代以前の「日本近代史」は,江戸時代以前の日本的伝統を否定する傾向があり,明治期の脱亜入欧・富国強兵の精神を「是」としがちだった。廃仏毀釈というか。欧米的な歴史観で,近代を捉えていた。しかし,主にカルチュラル・スタディーズの影響で,江戸時代の文化・経済的豊饒性が改めて注目されるようになった。江戸時代の蓄積があったから,明治期に短期間での近代化が可能になり,歴史は連続しているということだ。そして,その伝統に根ざしているからこそ,日本の近代には特異性があるのが当たり前だと。

瓦版の伝統が色濃く残るのは,実はテレビのワイドショウの世界だ。リポーターと呼ばれる存在は「読売師」である。いまは『THE サンデー』や『スッキリ!!』などNTVにしか残存していないが,「事件・出来事を再現ドラマで語る」という方法は,実に瓦版的(さらには歌舞伎的)だ。

なお,テレビの時代劇の瓦版売りが時代考証的に変なのは,出来事の概要だけを口上を述べて,「詳しくはこれを読んどくれ」と瓦版を渡す点。推定識字率からみても,それは無理な話である。賤業だから,笠をかぶっていたはず。瓦版が銭と引き換えでない点は,「対価」という概念がなかったことから,考証は正しいとみられる。

# 江戸時代の日本人民衆の読み書き能力(識字率)については,こちらで書評した書が参考になる。

*1:赤尾の母方も天智天皇を源流とする,膳所神社の神官の家系である